今回は会社の設立について書いてみたいと思います。(個人の開業については前回の記事をご覧ください。)
会社を設立し、管理運営していくには非常に手間がかかりますので、単純な手間だけを考えるなら個人事業主としてやっていくほうが簡単です。それでも法人を設立するのは税金も含めて様々なメリットがあるからです。

今回は会社の設立手続きについて確認しながら、注意点についても少し触れていきたいと思います。これから会社を設立しようとしている方、個人事業主として活動していて会社を設立しようか悩んでいる方はぜひ読んでみてください。

会社を設立する前に

会社を設立するには登記を行いますが、登記の前に様々な手続きや決め事が必要です。

①重要事項の決定
会社の名前を何にするか、どんな事業をするのか、資本金はいくらにするのか・・・と様々なことを決めておく必要があります。

②個人の印鑑証明書を取得する
会社を設立する際に、発起人と呼ばれる人と取締役の印鑑証明書が必要となります。発起人とは会社を設立する人で、設立の準備に加えて出資もする必要があります。殆どの会社では「発起人=会社を作る人=代表取締役=支配株主」という位置づけになると思います。既に個人の印鑑登録が完了していればよいですが、印鑑登録していない場合は登録から始める必要があります。

③会社の代表印を作る
登記申請の際に会社の実印として登録することとなります。この代表印は法務局への申請時や書類作成の際に必要となります。近年では押印が不要な書類も増えてきているようですが、完全になくなるのはまだまだ先なのかなと感じています。合わせて銀行印や認印も作成しておくと良いでしょう。

④定款を作って公証人役場の認証を受ける
定款とは会社の規則のようなもので、会社名や所在地のように絶対に記載しなければならない内容、株式の譲渡制限のような書くことによって法的に効力を持つ内容、そして書いても書かなくても問題ない内容があります。定款を作ったら公証人役場で認証を受けることで、はじめて効力を持つこととなります。

⑤資本金を払い込み、その証明書類を作成する
まだ会社の口座が開設できないため、各出資者がそれぞれの出資金額を発起人の個人口座に払い込みます。その後「払い込みがあったことを証する書面」を作成します。こちらは出資者が一人だったり、家族だけであればそこまで気にすることはありませんが、第三者に出資していただく場合には依頼する必要があることと、お金の取り扱いとなりますので余裕を持ちつつ細心の注意をもって進めてください。

おおまかですが、ここまでが会社の設立登記をする前に必要なこととなります。
内容についてはざっくりとだけ記載しました。というのも、この領域は税理士ではなく司法書士の専門分野だからです。登記の代理行為は司法書士と弁護士が可能ですが、弁護士は殆どされていないようです。近年はfreeeやマネーフォワードクラウドといったクラウド会計ソフトを提供している会社が、簡単に登記のための準備ができるサービスがありますので、費用を抑えるならそちらを利用してみるのもおすすめです。ただ、間違いや漏れがあると何度もやりとりをすることになりますので、自信が無かったり、しっかりと対応したいという方には司法書士に相談することをおすすめします。

これらの決め事の中で税理士から見た注意すべきポイントとして、資本金と事業年度があります。
資本金については1円から会社設立が可能ですが、特定の場合を除いてできる限り手厚い金額にしておいた方が良いと思います。理由としては、銀行からの評価が厳しくなり、借入はもちろん場合によっては口座開設が厳しくなるという話もあります。また、新しく取引を行う場合に相手先から財務諸表の提出を求められることがあり、そこで資本金が1円となると印象が悪くなってしまいます。資本金を1,000万円以上にすると消費税や法人税等に影響が出てきてしまいますので慎重な判断が必要ですが、銀行からの融資を考えていたり、取引先を拡大していきたいと考えているなら少なくとも数百万円を資本金として始めることをおすすめします。

事業年度についても注意が必要となります。よく言われるのは主要取引先の決算期に合わせないことと、会社の閑散期を期末にすることです。これには2点理由がありまして、決算作業というのは会社にとって負担が大きいものですので、事業が忙しくなりそうなタイミングを避けるためと、決算直前での売上や利益の大きな積み増しを避けるためです。得意先の決算によって予算消化や自社の繁忙期が決算直前にあることによる売上増が利益の予想を難しくし、決算対策や納税予測が適切に行えない可能性があります。また、圧倒的に3月決算の会社が多いことから決算料を値上しているという税理士もいますので、それらを避けるという点からも検討してみると良いのではないかと思います。一番大切なのはどのような事業年度にしたいと考えているかですが、こだわりが無いようでしたらこういったことも考えてみてください。

会社を設立した後に提出が必要となる書類

必ず提出すべき書類

届出等の名称届出先期限
法人設立届出書税務署設立から2か月以内
青色申告承認申請書税務署設立から3月を経過した日と事業年度終了日のどちらか早い日の前日
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書税務署設立から1か月以内
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書税務署なし(提出日の翌月から効力発生)
法人設立届出書※1都道府県税事務所、市町村※2設立後15日以内※3
※地方自治体によって名称が異なります。
※2都道府県税事務所と市町村の2カ所に届出が必要です。
※3地方自治体によって期限は様々なようで、1月や2月といったところもあります。ただ、遅れても罰則は無いようです。

法人の場合、登記申請日が設立日となりますが、個人事業主の開業と違って登記申請から登記の完了まで1~2週間かかりますので、それからあわてて書類を準備するとあわただしくなってしまうので、事前に準備しておくことをおすすめします。

法人と個人で違うのは「給与支払事務所等の開設届出書」です。法人の場合は1人であっても役員報酬という形で給与を支払うことになりますので、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」と合わせての提出を忘れないようにしましょう。(こちらの内容は個人の開業のコラムをご参照ください。)なお、法人の青色申告は個人ほどのメリットはありません。主なものは「欠損金の繰越控除と繰戻還付」「減価償却資産の特別償却または特別控除」「少額減価償却資産の特例」です。法人の場合は家族を役員や従業員にして給与を支払うことに制限が無い(適切な報酬であればですが。)、引当金の計上は青色申告ではなくても可能といったように、もともと備わっている部分が大きいとも言えます。

状況によって出すか出さないかを判断する書類

届出等の名称届出先期限提出する場合等
減価償却資産の償却方法の届出書税務署設立第1期の確定申告書の提出期限定率法から変更する場合
棚卸資産の評価方法の届出書税務署設立第1期の確定申告書の提出期限最終仕入原価法から変更する場合
消費税課税事業者選択届出書税務署設立第1期の会計期間中課税事業者を選択する場合
適格請求書発行事業者の登録申請書税務署令和5年3月31日(インボイス制度適用開始日の令和5年10月1日から適用を受ける場合)インボイス制度の適用を受ける場合

減価償却資産の償却方法について何も届出をしない場合、個人事業者は定額法という毎期均等で費用化される方法が選定されますが、法人の場合は定率法という最初は費用化される金額が大きく、年数が進むにつれて費用が小さくなる方法になります。(費用となる合計額は定額法も定率法も同じです。)基本的には提出しないことが一般的ですが、定率法がその資産の性質にそぐわない場合、適切な損益管理のためにあえて定額法を選ぶのも選択肢の一つだと思います。

消費税課税事業者選択届出書につきましては、インボイス制度の適用を受ける以外にも提出すべき場合があります。詳しくは下の「法人格の注意点」の「大きな設備投資に注意しよう」に記載いたしましたので、参考にしてみてください。

法人格の注意点

役員報酬には注意しよう

個人事業主は売上から費用を差し引いた金額が自分の所得となりますが、法人が役員に対して支給する報酬には様々な要件があります。その要件を満たさないと、法人税法上では費用として認められず、法人税と所得税の2重課税となってしまいます。これは、役員報酬によって利益を調整することで、税金も調整できてしまうことを防ぐためとも言われています。役員報酬として認められる方法は以下の通りです。

①定期同額給与
毎月同日に同額の給与を支払う方法です。事業年度開始日から3月以内に報酬額を決めて、決めた額を翌年の同時期まで毎月支払いつづける必要があります。役員の地位が変わった(常務取締役から代表取締役になった)り、会社の業績が著しく悪化したといった特別な事情がある場合だけその内容に合わせて変更できますが、基本的には一度決めたら一年間固定と考えて差し支えありません。

②事前確定届出給与
これは株主総会等でこの給与に関する決議をした日(その日が職務の執行を開始する日後である場合にはその開始する日)から1月以内と、事業年度開始日から4月を経過する日のどちらか早い日までに税務署に届出を行う必要があります。また、その届出に記載した日付と金額通りに支給して初めて認められますので、定期同額給与と比較して使いづらい制度だと感じます。給与の支給を忘れていたという話をお伺いしたこともありますので、運用は慎重に行う必要があります。

③業績連動給与
これは利益の状況や株式の市場価格といった特殊な指標の変動から役員報酬を決めるという、企業の業績に合わせて報酬を支給するために利用する制度です。同族会社で利用することができず、実質的には上場企業での運用に限られると言ってもいいような制度となっています。

実質設立初年度に使えるのは①の定期同額給与に限られ、利益の予測が立たない中で3月以内に報酬を決めるのはかなり難しいと思います。役員報酬に合わせて社会保険料の負担もあるため、生活費は別途あるという前提であれば個人的にはやや少なめの報酬が良いのではないかと思います。もちろん利益が一定水準以上見込める、個人事業主から法人になったので利益予測も問題ない、といった場合もありますので、その場合は税率や目標利益等の別の焦点から決めればよいと思います。

社会保険には加入必須

これは税務と直接関係ありませんが、法人は社会保険に加入することが義務付けられています。これまでの国民年金と国民健康保険から一般的には全国健康保険協会(通称:協会けんぽ)に加入することとなり、保険料の負担が増加します。従業員を雇っていた場合には、社会保険料の半分を会社が負担することとなりますので、人件費の負担増にもつながる可能性があります。一方で、昨今の人材不足という観点からは社会保険に入っていることが人材獲得の第一歩になることもありますので、単純なデメリットではないと思います。

大きな設備投資に注意しよう

資本金が1,000万円以上であったり、大会社から支配されている会社で無ければ初年度は消費税の計算を行わない免税事業者となります。法人に限った話ではありませんが、免税事業者であるということは、大きな設備投資等があった場合に損をする可能性があります。具体的には以下のようになります。(計算は単純化してあります。)

■売上高100円(消費税10円)、費用50円(消費税5円)の場合
免税事業者の場合 110円-55円=55円が利益となり完了。
課税事業者の場合 100円-50円=50円が利益 消費税差額10円-5円=5円は別途納める必要あり
なお、免税事業者とは消費税の納付を行わなくてよい事業者で、課税事業者とは消費税を計算して差額を納付する必要がある事業者をいいます。法人税等を除いて考えた場合、免税事業者のほうが5円お得となります。

これが、大きな設備投資があると以下のようになります。

売上高100円(消費税10円)、費用50円(消費税5円)、設備投資200円(消費税20円)
免税事業者の場合 110円-55円=55円が利益となり完了
課税事業者の場合 100円-50円=50円が利益 消費税は10円-5円-20円=△15円(還付

大きな設備投資等があった場合は課税事業者であれば消費税が還付されるため、免税事業者であると損をしてしまいます。法人税を除いて考えた場合、課税事業者の方が10円お得となります。もし仮に事業開始の初年度に大きな設備投資等を検討されている場合は、課税事業者選択届出書を税務署に提出して課税事業者になるかどうかの判断が必要になります。

おわりに

法人の設立は個人の開業と違って様々な手続きが必要で、設立後も管理がしっかりと求められるようになります。それでも税金や信用といった面で大きなメリットがありますので、設立に迷ったら税理士に相談してみることをおすすめします。今回はメリットまで言及することができませんでしたが、個人と法人のメリットデメリット、個人事業主から法人化するときのタイミングについてはいずれ書いてみたいと思っています。

なお、当事務所では設立手続き対応が無料でその後の料金についてもお得なサービスがありますので、法人を設立しようか迷っている方がいらっしゃれば気軽にご相談ください。

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