はじめに

この記事は新しく会社を設立するまたは個人で事業を始められる方と、売上高が1,000万円以下の方向けです。
というのも、売上が1,000万円を定常的に超える場合は基本的にインボイスの登録をする選択肢しか無いと思うからです。
ですので、特にこれから創業しようと考えている方、創業直後の方はこの記事を読んで判断のご参考にしていただけますと幸いです。

消費税の制度について(納税義務とインボイスの関係)

2年前の売上が1,000万円を超える場合に消費税の納税義務が発生しますが、インボイスの登録をした場合は2年前の売上に関係なく消費税の納税義務が発生することとなります。
事業を新しく始めた当初は2年前の売上がゼロですので本来消費税の納税義務がありませんが、インボイスの登録をすることで消費税を納めなくてはならなくなります。

では、事業を始めた年にインボイスの登録の有無でどのように消費税が変わるのか、数字を使って見てみます。(計算を分かりやすくするため、法人税等は省略しています。)

①インボイスの登録をしない場合(消費税の納税義務が無い場合)
税込売上高 1,100万円 役員報酬 600万円 その他税込経費330万円 ⇒ 消費税無し

②インボイスの登録をした場合(消費税の納税義務がある場合)
税込売上高 1,100万円 役員報酬 600万円 その他税込経費330万円 ⇒ 消費税20万円

事業を始めた直後にあえてインボイスの登録をした場合は、売上に係る消費税(上記の例では100万円)の2割だけ納付すれば良いという制度(「2割特例」といいます。)がありますので、20万円の納付となります。
インボイスの登録の有無で税金が20万円増えていますが、仮に税込売上が5,500円ですと100万円増えることとなりますので、
この負担をする必要があるかどうか、しっかり考えていただけたらと思います。

※消費税の納税義務の判定は分かりやすく単純に記載していますが、実際はもっと細かな判断が必要となります。

なぜインボイスの登録をするのか

インボイスの登録をすると消費税の納税義務が発生してしまうので、納税義務が無い事業者にとっては上記のように余計な税金がかかってしまいます。
なのになぜインボイスの登録をする事業者が多いのでしょうか。
それは、取引先の税金に影響が出てくるからです。
どういった風に影響が出るのか、具体的な数字を使って見てみます。(計算を分かりやすくするため、法人税等は省略しています。)

①経費の支払先がインボイスの登録をしている場合
税込売上高 8,800万円 役員報酬など 900万円 その他の税込経費7,700  ⇒ 消費税100万円

②経費の支払先がインボイスの登録をしていない場合
税込売上高 8,800万円 役員報酬など 900万円 その他の税込経費7,700  ⇒ 消費税240万円
(令和8年10月以降の場合 売上や費用は同上)            ⇒ 消費税450万円
(令和11年10月以降の場合 売上や費用は同上)            ⇒ 消費税800万円

上記のように、取引先がインボイスの登録をしているかどうかで消費税が大きく変動するため、インボイスの登録をしていない事業者との取引をしたくなくなってしまいます。
現にインボイスの登録をしていない事業者とは取引しないとしているような事業者もいます。
そのような状況ですと、登録することで他社との取引ができるようになる、という背景がでてきてしまいます。

インボイスの登録に影響を受けないのはどんな場合か

インボイスの登録の有無による影響は少しご理解いただけたと思いますが、皆が消費税を納めており、上記のような影響があるわけではありません。
インボイスの登録をしていなくても気にしない方の一覧をまとめてみました。

①一般消費者(事業者ではない方)
②消費税の納税義務が無い事業者
③消費税の簡易課税制度を選択している方(2年前の税抜売上が5,000以下の場合に簡易課税制度を選ぶことができます。)
④2割特例の適用を受けている方

②~④に関しては、相手の情報を得ることが難しいので判断が難しいですが、①の一般消費者が主なお客さんの場合はインボイスの登録が不要なことが多いです。
例えば家族向けのレストランや基本一人のお客様が多いラーメン店は、インボイスの登録の有無がお店選びに影響を与えることは殆ど無いと思います。

登録をするかどうかの判断はどのようにしたら良いか

1つめの判断基準として、取引先(売上先)が一般消費者と事業者のどちらであるか考えてみてください。一般消費者の割合が非常に高ければあえてインボイスの登録をしなくて良いのかなと思います。
インボイスの登録をすることで確実に税金の額が増えてしまいますし、インボイスの登録をしていないからといって事業者のお客様が減るとも限りません。

2つめの判断基準として、同業界の方々がどのように対応されているかを確認してみてください。業界ではインボイスの登録が当たり前でしたら、仕事を得るために登録が必要になると思いますし、
インボイスの登録をしていない割合が高ければ、わざわざインボイスの登録をしなくても良いかもしれません。
ちなみに、私の観測範囲ではありますが、建設業関連はインボイスの登録が必須なイメージで、ITやコンサルティング業界は登録がまちまちな感じです。

3つめの判断基準は自分がどうしたいかです。インボイスの登録が無くてもしっかり売上があげられるなら周囲に合わせる必要もないですし、登録をして相手に影響もなくしっかり納税するのも一つの判断です。
例外的な対処としまして、インボイスの登録の有無による税額を気にする取引先はその分の値下げで対応し、影響がない取引先は通常通り対応するという方法もあります。

事業者の方が置かれている状況は様々ですので、これまでの内容を参考にぜひ判断してみていただけたらと思います。

最後に

インボイスの登録をするかどうかの前提情報や判断基準について書いてみました。
全員に当てはまるような正解は無く、個々の状況に合わせてご判断いただくしかないですが、その判断のための情報が以外と出回っていないように思います。
また、インボイスは登録するだけでなく消費税の申告も必要になりますが、その作業を忘れていたり認知していなかったりすることも多いようです。

当記事は細かな税制を省いて分かりやすく記載しており、今後の税制改正によって判断が変わったりもすると思いますので、それらを念頭に置いてご検討してみていただけたらと思います。

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